・・・夢を、見た。

とても、怖い夢を。


それが、ただの夢じゃないことは知っていた。




―――その夢を、『ただの夢』にしたかった。


理由は、ただそれだけ。










E N C O U N T E R










真っ暗な闇夜に包まれた村。月明かりだけがその村を照らしていた。
その村はとても小さく、地図にも載っていないような村だった。
その分、村の外の情報は殆ど入ってこない。その為、この村にとって旅人は貴重な情報源だった。


その日の夕方、一人の少年がその村にやってきた。
整った顔立ちに、長旅をした来たようには見えない衣服。歳は十四、五歳位くらいだろうか。その少年は、どう見ても旅をするようには見えないのに、その上、黒塗りの棍と旅の荷物だけで、お供もつれていなかった。
だからその村の人達はその少年を見て驚きを隠せなかった。


その少年が旅人だと知ると、村人たちは歓迎した。
畑仕事の終えた青年たちは、幼いながらも旅をする少年に興味を持った。

少年が今までに寄ってきた街や村の話をする変わりに、村人たちは少年にこの地の作物を分け与えた。




「森の村の近くにはグリンヒル市があるんです。グリンヒルには大きな学校がありました。僕くらいの子供はみんなその学校に入って紋章術や学問を学んでいくんです」

「紋章術か・・・俺達には縁がねえな」

「この村はいい村ですね。作物は良く育っているようですし、平和ですし。何より、皆さんの人柄が良いですし」

「お、良いこと言うな坊主。そうとも、ここで育った麦は最高だ!」

「村の外に出ないから外の情報には疎いけれど、こうして旅の人から情報を貰ったりして。時折交易もするのよ」

「坊主こそ、良い生活をしてきたんじゃないか?」

「僕ですか?僕は両親を亡くして・・・それでもいろんな事を知りたくてただ旅をしているだけですよ」




時折、少年は悲しそうに笑う。それを村人は両親を喪って寂しいからだと思い、敢えて触れようとはしなかった。

少年は村人たちの熱い歓迎が終わると、借りた部屋に戻り、ベッドに横になった。
少年が去った後も酒場は賑わっていた。寄った男たちの声が酒場から聞こえ、少年はそんな平和そうな村人たちを見つめて、哀しそうに瞳を伏せた。

ベッドから起きて窓から外を覗くと、そこには平和な時間が流れていた。

少年は祈るかのように手を合わせた後、またベッドに横になり、目を閉じた。

右手がとても熱くなっているのを感じても、その少年は起きようとはしなかった。




そして少年は真夜中に目を覚ます事になる。




「・・・っ・・・・・・」




思わず叫びそうになる声を抑えて少年は飛び起きた。
声を殺すことができるようになったのは、夢にうなされて起きることが何度もあったからだ。

乱れる呼吸を落ち着けようと深呼吸を繰り返す。
けれど少年は落ち着いた後、ベッドから離れ、もう一度眠りにつこうとはしなかった。
それはもう一度夢に魘されることが怖かったのではない。

初めからこの村で一夜を明かすつもりなどなかった。
明かそうにも明かせないことを知っていたからだ。

少年は右手に巻かれている包帯をもう一度きつく縛り直し、自分の荷物を纏める。
そして少年が棍を手に取り、部屋を後にしたとき、暗かったはずの村は明るく照らされた。


少年は慌てて家を飛び出し、小さく呪を唱える。それと同時に少年の額がほのかに蒼く光りだす。

少年以外にも慌てて家を飛び出してきた人達がいた。
そしてその人たちが目にしたものは夜にしては明るい原因となった物。そして何かが燃える匂いと、血の臭いだった。




「うわああああ!!!」

「きゃあぁぁああ!!!」

「誰か、誰か!!」




村中に響き渡る叫び声と目の前に広がる現状に、誰もが絶望を感じた。

そしてその時、空から水が落ちてきた。その水は村中につけられた火を鎮火していく。
雨かと思い村人が空を見上げると、月の光が見えた。雨ならば空を雲が覆い尽くしているはずなのに。

雨の正体は普通の水だった。
まるで噴水の様に空中をきらきらと舞う水。
その噴水の真ん中には、夕方訪れた少年の姿があった。
少年の額には紋章が光っており、その紋章が辺りに水を撒き、村中の火を消そうとしているのだと村人たちは知った。




「・・・この水は貴様か」




少年に寄ってきた白い影。
その姿を見て村人は震え上がった。

白い影の正体は真っ白な鎧。大きな体格を包み込んで着るその鎧には、幾つか赤い物が付いていた。そして白い鎧を身に纏った自分物が持っている剣にも、赤い物がついていた。それも、鎧とは比べものにならないくらい大量に。

それの正体が血だと気付くのに、時間は掛からなかった。
けれど少年はその人物を見つめているだけで、逃げようとはしなかった。

そんな少年に、遂に剣が向けられる。
誰もが少年が切られると思い、その現状から目を背けた。
しかし、その予想に反して血飛沫は飛ばず、変わりに、カンッ、と硬い物がぶつかるような音がした。




「・・・この惨状は、貴方がやったもの?」

「そうだ」

「人を殺して、村を焼いて、貴方は何を得るの?」




少年は黒塗り棍を構え、剣を防いでいた。そして剣から加えられる重圧にも怯まず、冷たい視線で相手を見つめる。
そして相手がもう一度剣を振り上げようとしたとき、相手の懐に素早く入り、棍を喉元に突きつけた。




「・・・お前、何者だ」

「偶々この地に寄った旅人だよ」




そう言う間にも少年の瞳はより一層鋭い物になっていく。
それを見た村人たちは震え上がり、ただただ少年の無事を願うことしかできなかった。

少年は全く隙を見せようとしない。そして攻撃してこようともしない。




「・・・何故殺さない?」

「殺す気がないから。初めは様子を見ているだけのつもりだったんだけどね。あまりにも噂通りの人物で少し驚いたよ、ルカ・ブライト」




そう呼ばれて鎧の人物――ルカは瞳を見開いた。
そして口元をつり上げ、剣を降ろす。




「ほう?俺と知っていて立ち向かってくるか」

「戦う気はないよ。生憎、僕には貴方という人物に興味があってね」

「なかなか変わったこと言う。何しろ俺を止めたのはお前が初めてだ」

「僕に少しでも興味を持ってくれたと言うことかな?なら、取引をしよう」




そう言って少年はルカに向けていた冷たい視線からうってかわって笑みを浮かべた。そしてルカの喉元から全く動かそうとしなかった棍を下ろす。
端から見れば隙だらけの姿だが、ルカにしてみれば隙など、この少年にはなかった。




「取引、か?」

「そう、ルカが僕に興味を持っていることが前提だけどね」

「この俺に対して『取引』だと?」

「ルカには目的がある。だからこの村を襲った・・・違う?」

「・・・・・・・・・」

「そしてルカは強い人が好きだ。そして僕はその条件を満たしている。だから僕を側に置いておきたい・・・違う?」

「・・・ふん、なかなか面白い推測だ。それが『取引』か?」

「この村にこれ以上手を出さない。それが僕の出す条件だよ」

「・・・お前の利益は?」




ルカは笑みを深める。

確かにこの少年に興味を持たなかったと言えば嘘になる。
なにより自分と同等・・・否、それ以上の力を持った人間など見たこともなかった。
それをこの小さな少年は備えているのだ。

けれど、ルカにはこの少年がそんな取引を持ち出してくるようには思えなかった。
『偶々この地に寄った』だけの人間が、その村を救うために自分の身を犠牲にしようとするだろうか。
ルカを倒すことだってできるだろうに。


そんなルカの考えをよそに、少年は微笑む。









「ルカの目指す物は、僕と同じ物だと思うから―――









少年は知っていた。今日、この村に彼が来ることを。
だからこそ、この村を訪れたのだ。彼――ルカ・ブライトに会うためだけに。

この村が襲われるも知っていた。このみんなが寝静まった後、この村に火の手が上がることも知っていた。
けれど、少年がそのことを村人に言わなかったのは、言っても誰も信用しないと思ったからだ。それに、例え信じてもらえたとしても、この人里から離れた村は森に囲まれており、逃げ場などない。
下手に森の中に入ってしまえば、飢えた獣に襲われるだけだ。
見たところ、この村には紋章術もない。武器もない。身を守る鎧もない。戦う術を持たないこの村の被害を最小限に抑える方法は、これしかなかったのである。

少年は村の異変に気づいたのが早かったため、村は全焼せずにすんだ。
この村を襲った将を止めたから、これ以上の死人が出ることもない。


何より、少年はルカがこの『取引』に応じると『知って』いたのだ。
だから今ルカが持っている剣が村人達に向けられることもないし、ましてや少年に向けられることもない。
例えその剣が村人や少年に向けられたとしても、少年にはルカに勝てるという自信があった。
そしてそれは驕りではなく、事実だった。




「俺の目指すものが、お前と同じ、・・・だと?」

「正確に言えば、ルカのやることが僕の望みを叶えてくれる『かもしれない』から、だけどね」




そう言う少年の青灰色の瞳は、この歳の子供の持つものとは思えなかった。

この少年の力にも興味を持ったが、ルカはそれ以上にこの少年自体に興味があった。


若草色のバンダナに覆われた漆黒の髪。
旅人だというのに全く日焼けしていない肌。
ルカの剣を止めたようには見えない、赤い胴着に包まれた細い体躯。
幼いながらも整った顔立ち。
とても冷たい色を放つ、アメジストのような瞳。

血を纏った自分に物怖じせず、凛とした姿勢で見つめ返してくる。
その姿はとても美しく、気品さえも感じた。

かと思えば、本当に子供のように柔らかく笑う。


つかみ所のないこの少年に、とても興味がわいたのだ。




「・・・いいだろう。お前の望み、俺が叶えてやろう」




青いマントを翻し、ルカはその中に少年を招き入れる。

少年はルカに誘われるがままにマントの中に入り、微笑む。


今まで黙ってルカの様子をうかがっていた周りの兵士達に、ルカは命令を下す。先ほどまでのルカとうってかわったその命令に、兵士は驚くものの、呆然とした兵士達に向けられたルカの視線はとても冷たくおぞましいものだったので、慌ててその場を去っていく。
その様子を青い顔をして見つめていた村人達に、少年は視線を戻すと






―――ごめんね」






と小さく呟いた。






+ + + + +






風が吹く。
さわさわと鳴る木々の下を、一つの軍が通っていく。

その中央の白い馬に乗っているのは二人。


一人は剣を腰から下げた、白い鎧を着た男、ルカ。
そしてルカの前に抱きかかえられるかのようにして座っている、一人の少年。

少年はルカに一人でも馬に乗れる、と言おうとしたのだが、生憎、少年の為の馬はどこにもない。
兵士達が乗ってきた馬があるが、ここから先、森を抜けるのに馬がないのは危険だ。
そう考えて、少年はあえて何も言わず、ルカと同じ馬に乗ることにしたのだ。

まさか片腕で手綱を操り、空いている腕を腰に回されるとは思わなかったが。




「・・・ルカ」

「・・・なんだ?」

「僕は馬に乗り慣れているから落ちたりしないよ」

「片手でも手綱は操れる。問題ない」

「・・・・・・なら・・・、いいけど」




少年は言葉とため息をはき出す。
そして月を見上げる。

森の木々の中から淡く光を放つ月明かりは少年に『夢』を思い出させる。
毎日のように見る、あの怖い『夢』を。

大して眩しくもないのに、少年は自分の顔の前に手を翳し、指の隙間から月を見上げる。




真っ暗なやみ。
ほんの少しの光。




「どうした?」




眉を顰めた少年に、ルカが問いかける。
その声に少年は視線をルカに向け、一瞬だけ驚いたように目を見開いた。が、すぐに微笑み、「なんでもないよ」と返す。




「ただ、思い出しただけ」

「何をだ」

「う〜ん・・・『真実』を、かな?」




くす、と声を漏らす少年に、ルカは少し疑念を持ったが、大して気にはしなかった。
先ほどの少年の視線を追って見上げれば、そこには黄金色に輝く三日月があるだけ。




「ところで、お前、名は何という?」

「・・・名前、ね。そう言えば自己紹介してなかったね」




そう言うと少年はルカに向き直る。
左耳に着けている碧い石が、振り向きざま小さく揺れるのが目に入った。









「僕はティリアス。みんなにはティルと呼ばれていたよ」









月明かりが照らす、闇色の空の下。
そこで初めて二人は出会った。




これが、全ての始まりだった―――











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【encounter】・・・出会い、遭遇する



* * * * * * * 後書き * * * * * * *




・・・・・・。
幻想水滸伝です。時代は2ですね。
登場人物、坊ちゃんとルカしか出てない・・・
一応ルク坊なんですよ。ええ、ルック出てないけど。
難しいです・・・坊ちゃんが。設定は決まっているんですよ。
でもいまいち性格が掴みにくんです、彼は。
あと、ルカの口調が解らない・・・。

こんな形で進んでいきたいと思っています。
興味のある方は、是非、続きを読んでください・・・