あのとき、僕は約束した。

気持ちを打ち明けてくれた君と


またいつか会える。

その時までに、『答え』を出すと―――


漸く、答えを見つけた

だから、君に伝えよう。




僕の、精一杯の想いを込めて










A N S W E R










その日は、いつもと大して変わらない、何の変哲もない日のはずだった。
ただ、バナーの村に一人の少年が泊まった。その少年が『トランの英雄』であり、それに気付いた者が数人いた。ただそれだけのはずだった。


ことの始まりは、村中に響き渡った水しぶきの音―――




その日、ティルはいつもよりも遅い時間に起きた。『遅い』とは言っても、まだ朝の早い時間ではあったが、いつも日の出前に起き、宿を出て行くティルにしてみれば、既に陽が昇り始めているこの時間に起きることは珍しいことだった。
一昨日野営をした所為もあって、疲れていたのだろう。それとも一昨日の夜に走った痛みが、まだ取れきっていないのだろうか。
どちらにせよ、ティルはそのおかげで夢を見ることもなく、久しぶりに深い休息を取ることが出来た。


「おはようございます」と声を掛けてきたのは、宿屋の一人娘のエリという少女だった。
エリは両手で大きな籠を持っていて、その中には大小様々な野菜が入れられていた。
エリの後ろには、赤い胴着のような物を着、小さな頭に金環をつけている少年がいた。
その姿は同盟軍軍主の物と似ていて、ティルは少年が同盟軍軍主のファンなのだと考える。

少年も、エリよりは小さい野菜入りの籠を持ち、賢明に運んでいた。
その微笑ましい光景を、ティルはしばらくじっと見つめていた。




―――グレミオがいたとき、僕もあんな風に手伝ったなぁ・・・




そんなことを考えながら。


少年の名前が『コウ』だと知ったのは、朝食を食べているときだった。
こんな田舎の村に旅人はあまり寄らないのだろう、人のいない食堂でティルの目の前に食事を持ってきたのはエリだった。勿論、その後にコウがついて回る。
けれど、食事をティルの前に置いて去っていったエリとは違い、コウはティルの顔をじっと見つめて向かい側に座った。
どこか楽しそうなその様子に、ティルは小さく笑みを浮かべながら首をかしげる。




「・・・?何か用かい?」

「僕、コウって言います!お兄さんはなんて言うの?」

「僕?僕はティリアス。ティルで良いよ」




ティルは初め偽名の方が良いかとも思ったが、今食堂には殆ど人はいないし、席も疎らで、ティルの声に耳を傾ける者はいない。
例え聞いていた人がいたとしても、この村の殆どの人は既にティルの正体に気が付いている。
ただ、それをあえて口にしないだけなのだ。
コウの姉――エリも例外ではない。

だから正直に自分の名前を言ったティルに返ってきたコウの言葉は、意外なものだった。




「・・・『フェイマオ』じゃないの?」




その言葉で、コウが何を期待していたのか解った。
ティルは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに笑顔に戻りコウに言う。




「残念だけど、違うよ」

「・・・フェイマオ様でしょ?」

「フェイマオ様は同盟軍軍主でしょう?今は忙しいんじゃないかな?」

「フェイマオ様でしょ?」

「コウ君、フェイマオ様は・・・」

「フェイマオ様でしょ?」

「・・・・・・コウ―――?」

「フェイマオ様でしょ」

「・・・・・・・・・・・・」

「フェイマオ様」




コウは真剣な瞳でティルに尋ねてくる。けれど、尋ねてきているのに、ティルの言葉を全く聞こうとはしない。
それどころか、自分の意見をティルに押しつけてくる。

ティルはそんなコウの態度に苦笑いを浮かべるしかなかった。




「・・・コウ君」

「なぁに、フェイマオ様」

「どうして僕がフェイマオ様だと思うの?」

「だって、ちがうもん」

「『違う』?」

「うん、ちがうの。フェイマオ様の周りね、静かなの。だけどね、ピリピリしてるの。他の人はちがうのに、フェイマオ様の周りだけピリピリしてるの」




コウは満足げに言う。当たっているだろう、とどこか誇らしげにも見える。

コウの言葉を、ティルは否定することは出来なかった。
コウの言う『ピリピリ』というのは、ティルの周りの空気が緊張していると言うことなのだろう。
それはティルがまだ幼い頃、いつかは将軍になるようにと、テオに育てられてきたおかげで身に付いたものだ。
そのおかげで解放軍を率いてきたときも、暗殺者に殺されることはなかった。
長い時間を掛けて身につけたものだ。そう簡単に消せるわけがない。

けれど、その事に気がつけたと言うことに、ティルは内心驚いていた。
やはりまだ幼い為か、そう言った空気に敏感なのだろう。


けれど、残念ながらティルは『フェイマオ様』ではない。
その事をもう一度コウに伝えようとするが。




「残念だけど、僕はフェイマオ様じゃないよ」

「フェイマオ様だよ」

「さっきも言ったけど、僕の名前はティリアス。フェイマオじゃないんだよ」

「・・・『ぎめい』、でしょ?」

「・・・え?」

「お母さんがね、言ってたもの。宿帳にね、たまにウソの名前を書く人がいるだって。でもね、それに気付いてもどうして、ってきいちゃいけないんだって。その人にはその人の『かこ』があるから。それと、『えらい人』も『ぎめい』を使うんだって。そうしないと、『ねらわれ』ちゃうから。
フェイマオ様は『えらい人』でしょ?だから『ぎめい』をつかうんだよね?」

「・・・・・・でも、僕の名前は『ティリアス』なんだよ」

「でも、『ぎめい』でしょ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」




―――偽名を使っている人に『偽名でしょ』って訊いて、普通に答えてくれるんだろうか・・・?


真っ直ぐ見つめてくる瞳に、ティルはそんなことを考えながら、白旗を揚げた。






+ + + + +






コウの視線を痛いほど感じながら、食事を終えたティルは、どうやってグレッグミンスターに入り込むかを考えることにした。
おそらくトラン共和国と同盟国領の間にある関所には見張りがいるだろう。
その見張りに気付かれてしまえば、おそらく知らせは大統領であるレパントの耳に届くことになる。
何事もなくグレッグミンスターに戻るためには、どうやって見張りに自分が『ティル』――『トランの英雄』であると知られないで済むかを考えなくてはならない。
このバナーの村でさえ、ティルの顔を見ただけで『トランの英雄』だと解ってしまうのだ。トラン共和国の者ならば、すぐにばれてしまう。
何より、レパントが見張りとしておく人材だ。解放軍時代に名をあげた者である可能性は高い。それならば尚更見張りを誤魔化すことなど難しくなってくる。

いっそのことテレポートでもしてしまおうかとも考えたが、まだ完全に魔力を支配しきれない状態。これではグレッグミンスターはおろか、トラン共和国以外に転移してしまう可能性も高い。


良い考えが浮かばない中、ティルの目の前に現れたのは、片付けに来たエリだった。

ティルに一礼してそのまま厨房に戻っていこうとするエリを、ティルは止めた。




「ね、一人でゆっくり考えられる場所って、ある?」




その言葉にエリはしばらく考えた後、小さく頷き、「しばらく待っていてください」と言うと、皿を片付けるために厨房に戻る。コウもその後ろに続いて厨房の中に入っていく。
中にいる母親に一声掛けると、エリはすぐにティルのそばまで戻ってきた。




「案内します」




宿屋を後にする直前、厨房から小さく頭を出し、こちらを覗いているコウの姿が目に入ったが、エリに名前を呼ばれて、静かに扉を閉めた。


この時、コウが悪巧みをしていたことは、誰も知らなかった。




エリにつれられてきたのは、宿屋の裏にある小さい池の前だった。
釣りをするために、桟橋のようなものがつけられている。
少し見上げれば、トラン共和国に続く森が見える。
けれど、その森で影が出来るわけでもなく、陽が当たって暖かい。




「結構陽射しも気持ちいいですし、のんびり過ごしたいときとかは、コウと一緒に此処に来るんですよ」

「弟思いなんだね」




エリの言葉にティルが笑ってそう言うと、エリは頬を赤く染めて「そうでしょうか・・・?」と小さく呟いた。そんなエリにティルは「そうだよ」と頷き返す。
池の側まで行くと、意外にも池の水が澄んでいることに気が付いた。更によく見ると、池の中に小さな魚が泳いでいるのが見えた。




「エリちゃん、しばらく此処にいさせてもらっても良いかな?」

「大丈夫ですよ。誰にも邪魔されたくないんでしたら、私が見張ってましょうか?」

「其処までしなくて良いよ。エリちゃんにも仕事があるだろう?食堂はこれからが忙しくなるんじゃないの?」




小さく笑ってティルがそう言うと、エリは「そうですね」と頷き、ティルに一度頭を下げてから宿屋に戻ろうと踵を返した。

けれど、そんなエリとすれ違いに走ってきたのは、コウだった。




「フェイマオ様〜〜〜〜!!!」

「え、わっ!?」




ばっしゃああぁぁあああぁぁぁん!!




コウの声、ティルの短い叫びと、激しい水音が殆ど同時に下のを、村全体が知っていた。




この後、小魚たちと一緒に池の中を泳ぐことになったティルの目の前で、激しい姉弟喧嘩が繰り広げられた。
ティルはその光景を目にして池から出ることを憚られた。が、食堂から飛び出してきた母親の制裁で、二人は大人しくなり、ティルは漸く池から上がることが出来た。






+ + + + +






ルックは静かに瞳を伏せた。
背中に当たる冷たく固い物に寄りかかり、誰にも気付かれないようにため息を吐いた。

視線の先にある本は、その役目を果たしていなかった。
確かに視線は本の文字を追っている。けれど、実際にその内容がルックの頭にはいることはなく、何度も何度も同じ所を繰り返し読んでいた。




―――これからトランに行こうと思うんだ。ルックも一緒に行こうよ。




先ほどフェイに言われた言葉だ。特に気にするほどのことでもない。

問題はその問いかけに自分はなんと答えたか、だった。

いつもなら「面倒だから」の一言で済んでしまうはずだった。
けれど、今回は何故か躊躇った。

フェイと同じように、ルックに与えられた休暇も久しぶりなのだ。せっかくなのだからのんびり過ごしたい。
いくら師に頼まれているとはいえ、軍主の休暇に付き合う義理などルックにはない。

だから、断るはずだった。
けど、何故かすぐには答えられなかった。
そして、その理由が今もわからない。


フェイも内心ルックには断られると思っていたのだろう。
いつもなら直ぐに反論すらさせてくれないほどきっぱりと断るはずのルックが断るどころか、返事も返さない。

漸くルックの返した返事に、戸惑ったのはフェイやシーナの方だった。




―――・・・先に、行ってて。気が向いたら行くよ




その言葉に目を瞠った軍主は既にグレッグミンスターへと向かって、今はこの城にいない。
おそらくビッキーのテレポートでバナーまで跳んだのだろう。いつもは鏡の側にいるはずのビッキーの姿は其処にはない。フェイについて行ったのだろう。


ルックはもう一度ため息をついて、本を閉じた。
背を預けていた石版からゆっくりと離れ、部屋に戻る。


このままこの城にいても、おそらく本のページが捲られることはないと思った。
きっと、仕事の所為でずっと部屋に籠もっていたから、集中できないのだ。


部屋について、本を適当に片付け、ベッドの側に立てかけてあった杖を手に取る。

フェイがこの城を離れてから、それほど時間は経っていない。おそらく、まだバナーの村にいるはずだ。
そう考えながら、杖を翳す。
小さく何かを呟くと、風がルックの体を包み込んだ。




―――気分転換に行くだけだ。




心の中でそんな言い訳をしながら。






+ + + + +






前髪を伝って落ちていく雫が、ティルの着ている服に染みを作る。
池の縁側に腰掛け、陽の匂いのする布で、濡れてしまった髪を拭う。


今のティルは、少し大きめのシャツ一枚と、大きめのズボンを腰ひもで止めている。
濡れてしまった服は、エリとコウの母親である宿の女将さんが「責任を持って乾かす」と言って半ば強引に奪っていってしまった。今頃シーツと並んで暖かな陽の光を浴びていることだろう。

着るのものが無くなってしまうと思い、ティルは一応断ったのだ。けれど、ティルの言葉など殆ど聞かず、代わりにシャツとズボンをティルに渡した。

そのシャツは小柄なティルにしてみればかなり大きく、裾はティルの膝上まである。


ティルはズボンを何度か折り、膝下まで上げると、自身の足を池の中に浸した。

冬と言っても、昼間は暖かい。陽射しを浴びればなおのこと。
ティルは風が吹くたびに震えそうになる体を、緑の外套を羽織り、その背に暖かな陽射しを受けることで凌いでいた。

いくら暖かい湯で体を清め、暖めたとしても、冬の気候はそんなティルの体温を奪っていく。
女将はそう言ってティルを宿屋に留めようとしたのだが、ティルは「床が濡れてしまうから」と言って断った。
それ以外にも、この姿を誰にも見られたくないという理由もあるのだが。


ふ、と空を仰げば、既に太陽は真上にある。
もうこんなに時間が経ったのかと、内心苦笑いを浮かべる。

それまで髪を拭っていた手を休め、本来の目的を果たそうかと静かに池を眺める。

揺れる水面に、ゆがんだティルの顔が映る。
ティルはそれを呆然と眺める。




―――さて、どうやって騒がれずにグレッグミンスターに入り込めるか・・・


グレッグミンスターとこのバナーの村をつなぐ森には、忍の隠れ里がある。
そこで頼めばあるいは・・・
そう考えたけれど、ティルはその考えを打ち消した。

今彼らが従うべきは元解放軍軍主であるティルではなく、トラン共和国を統べる大統領――レパントなのだから。
ティルが口止めしても、彼らにはレパントには話すべき義務がある。それでは意味がない。


ティルが他に良案が浮かばないものかと森を見上げると、宿屋の裏口から女将が出てきた。
その腕にはまだ乾いていないはずのティルの胴着が畳まれて抱えられていた。

どうやら陽の光ではなく、火の側で乾かしたらしい。

ティルはまだ少し暖かいその服を受け取り、女将にお礼を述べた。






+ + + + +






「お姉ちゃんがいるから通れないと思うけど・・・僕に考えがあるんだ!ちょっと待ってて!」




フェイはそう言って駆けていったコウという少年の背中を、しばらく見つめていた。
重々しいため息を吐くフェイの腕を、ナナミが楽しそうに引っ張る。




「ほら、行くよ!フェイ!」

「・・・ナナミ・・・」




そんな姉の姿に、フェイは思わずもう一度ため息をつく。




―――今ね、僕の宿にね、フェイマオ様が泊まってるんだよ!




そう言ったコウの言葉にフェイが驚かなかったわけではない。
何せ『フェイマオ様』はフェイなのだから。
尤も、この少年はフェイのことを、自分と同じく『フェイマオ様のファン』だと思っているのだが。

そんな無邪気な少年の言葉に、誰もが言葉を詰まらせ、自分の耳を疑っていると、一人の少年が呟いた。




―――それって、誰かがフェイマオの名を騙ってるって事じゃねぇの?




その言葉に、フェイ達はその少年を振り返る。
黒い忍服を着た少年――サスケは自分に向けられた視線にほんの少しだけ驚いたが、幼いながらも忍びなのか、直ぐに冷静さを取り戻し、フェイを説得しようとする。




―――なあ、良いのか?お前の名前が悪用されると困るんだろ?




その言葉に、赤い騎士服を纏った青年が「そうですね」と深く頷いた。それを見てフェイ達は『フェイマオ様』に会いに行くことになったのだ。

其処まではフェイも納得できる。賛成もする。
確かにフェイの名前は悪用されたら困るのだ。同盟軍軍主でもあり、狂皇子を破ったとして名高いその名前を知らない者は同盟軍領にはいないだろう。
その名を悪用されては、せっかく纏まってきた軍の信頼が落ちる。
それだけは避けねばならない。

それなのに、どうしてこの姉はこんなにも緊張感がないのだろうか。




「フェイの偽物って、どんな人なのかなぁ?」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ、ナナミ」

「そうですよ。これは軍を乱す行為。騎士として黙って見過ごすわけにはいきません」




護衛として着いてきてくれた元赤騎士団団長のカミューの後ろで、シーナが笑みを深める。
面白いことが起こりそうだ、とでも考えているのだろう。

グレッグミンスターに向かうと聞いて重くなったシーナの足取りが軽くなったのを、後ろからフッチが少し呆れた視線で見つめる。


そんな奇妙な一行の前に立ちはだかったのは、一人の少女だった。




「すみませんが、此処は通せないんです」




コウの言った通り立ちふさがっている少女はなかなか道を譲ってはくれなかった。
何とかフェイ達が頑張って説得を試みるものの、彼女はなかなか首を縦には振らなかった。

仕方なく、この場は諦めて出直そうとした時。




「うわああぁぁあ!!お姉ちゃん、助けて!」

「コウっ!?」




突然聞こえてきた声に、少女は声の方へ振り向く。
その視線の先に映ったのは、鬱蒼と茂る森。

少女はフェイ達を押しのけて森の入り口の方へと駆けていった。




「ね、今のコウ君の声だよね」




ナナミの言葉に、フェイは頷く。
叫び声のように聞こえたそれに、フェイ達は一欠片の心配もしていなかった。

これはコウが少女をこの道からどかすために考えた作戦なのだ。

コウの考えたとおり、少女はコウを助けに森に向かった。
そしてその間に、フェイ達は開かれた道を行く。
―――全ては作戦通り。・・・のはずだった。


細い道が少し開けた場所に出た瞬間、ヒュッと風を切る音がフェイの耳に入った。
目の前には、小さな池。それと鬱蒼と茂る森。それ以外には何もない。
けれど、フェイの喉元にはひやりと冷たい物が触れた。
フェイはごくりと息を飲み込む。

いくら不意打ちだとしても、フェイの動きを止めるなど、常人には出来ない。
気配を消すことは出来たとしても、いくら何でも喉元を狙われればフェイだって避けようとはする。けれど、それが出来なかったのは、繰り出された攻撃が早かったからだ。

フェイが視線を少しだけ横にずらせば、風に吹かれて揺れる長い黒髪が目に入った。




―――・・・!?」




更に視界に映ったのは、鋭い紫の瞳。
自分よりも少し小柄の体躯。
そして、棍が握られている右手には、『彼』と同じ、真っ白な包帯。

驚きのあまり、フェイは声が出せなかった。
『彼』が此処にいるはずがないのだ。
そう頭では解っているのに、瞳に映るその姿は『彼』そのもの。




「フェイ殿?」




いきなり足を止めたフェイに、カミューが一歩近づく。
そこで漸くフェイの喉元につけられた棍を目にし、右手を腰に差した剣に伸ばす。
けれど。




「動くな」




その低い声の一言に、カミューの動きも止まった。
その声には殺気が含まれていた。

カミューは一瞬フェイの方に視線を送るが、フェイは突然現れた少年を見つめて瞳を丸くしているだけだった。

動きを止めたのは、後二人いた。
フェイが足を止め、カミューがフェイの異変に気付いたのと同時に、この二人もフェイの方に近づこうとして、目の前に現れた一人の少年の姿に言葉を奪われた。


突然、少年の棍が静かに下ろされる。
そしてフェイ達に走っていた緊張が少し和らぎ、しかし、声を掛ける暇さえも与えずに少年はフェイの隣を通り過ぎていく。




「・・・っちょ、お前!」




サスケが、何とかその少年の腕を掴む。
少年はその捕まれた腕を振り払おうともせず、けれど、冷たい視線のまま振り返る。
その瞳にサスケは一瞬言葉を失うが、右手を握りしめて勇気を出し、少年に尋ねる。




「お前が、『フェイマオ』の名を騙った奴か?」




少年は答えない。

その時だった。









―――ティリアス様!!コウが!!!」









その言葉に、全員が少女を振り返る。

その中で一人、ティルは内心舌打ちした。










<<BACK / ▼MENU / NEXT>>